最後はなぜかダムだった
『お客様にご連絡いたします。この列車は吹雪の影響と機関の故障のため、暫らくの間停車いたします。天候が回復し、機関が復旧するめどが立ち次第、出発のご連絡をいたしますので、もう暫らくお待ちください』
何だよ、せっかく家に帰れると思っていたのに。こんな山奥で止まっちゃって。だいたいなぜ、ダムのほとりに列車のレールが敷かれているの。こんなところに線路を敷いた奴の顔が見たい。って愚痴ってもしょうがないか。
「ねぇパクリ、質問をしても良い? いまさっきまで北海道にいたでしょ、その前は何処かの空港にいて。それなのになぜいまは、新潟県奥遠和ダムのそばにいるの、矛盾していない?」「その前に、なぜここが新潟県奥遠和ダムだと知っているんだ」「だって、そこに書いてあるもん」
確かに目の前には新潟県奥遠和ダムと書かれた一枚のレポート用紙がある。もちろんそれ以外にも書かれている。本音を言えば『疲れた』こんなにいっぱい文字を書く羽目になろうとは思ってなかった。だが、この大冒険も終わりに近づいている、なんとしても書き終えないと。
「あれっ、パクリ。あの人たちって警察官じゃないかな」
あっ、ホントだー。何でこんな場所にあんなに大勢、警察官がいるんだ。
「乗客の皆さまにお知らせします。このあたりには避難勧告が出されています。直ちに列車から降りられるようお願いします」
何でここまで来て、列車から降りないといけないんだ? あっ、あのカメラを持った人は新聞記者みたいだ、ちょっと聞いてみようか。
「何か事件でも起こったのですか」
「詳しい事はいえないがダムを乗っ取ったテロリスト集団がいるらしい。君たち何か見なかったかな?」
「いえ、何も見ませんでしたけど」
「これはオフレコの情報だけど、犯人グループは、ダムとダム職員を人質に取って五十億円を政府に要求しているらしい。要求を拒否すれば人質を殺し、ダムを爆発すると政府に対して通告している様子だ」
「その話、本当ですか」
「本当の話だ。だけど心配をする必要はない。確かにダムが決壊すれば、下流域の二十万世帯は一瞬のうちに洪水に飲まれてしまう。そんなことにならないよう、ヒーローがダムの近くに隠れている」
「ヒーローって誰?」
「それはいま、言えない。映画を見る人なら誰もが知っているヒーローだよ」
何てことだ。ダムを乗っ取るテロリストがいるなんて。まるで映画の中に溶け込んだような……そんなことより、この状況から逃げ出さないと。
「拓海。逃げよう」
「逃げようっていったい何処へ」
「そんなの分んないよ。逃げれる場所まで逃げるんだ」
ひどい吹雪だ、何でこんな吹雪の中、しかも山奥で逃げ回らないといけないんだ。ウン、何だこの音は?
パラッパラッパラッパラッ
何でヘリコプターが頭の上を飛び回るんだ。そうか、犯人が載って逃げまわっているんだな。それとも警察が犯人を追っているのかもしれない。いやいま重要な事は、ヘリコプターのローターが作りだす音と、強烈な風が原因で雪崩が起きる事だ。
そんなことも知らずにヘリコプターは飛び回っているのか? どこかに行ってしまえ、世間知らずの操縦者よ。
ほら見ろ、真っ白な雪が崩れ始めた。崩れ始めた雪が白いカーテンを作り出し、その白いカーテンが俺を襲ってくるよー。
チクショウ、何で雪崩に巻き込まれるんだー。逃げてやる、絶対にこの雪崩から逃げてやる。こんな山奥で死んでたまるか! もがくんだ、ゆきのなかで、必死にもがくと雪崩から逃げられるって聞いたことがある。
「ねぇ、パクリ。こんな階段で白いジャケットだけ着て寝ていると風邪をひくよ。それにもう朝だから起きる準備をしないと怒られるよ。それからひとつだけ聞いてもいい? メールは届いたの、それとも届かなかったの」
了